芝大門は、東京のなかでも静けさの残る一角だ。増上寺の大門をくぐり抜けた先、オフィスと住居が混ざり合うその路地に、立喰い鮨 浩也はある。大門駅から歩いて三分。看板は小さく、扉を開ければすぐにカウンターが目に入る。
席は十一。すべて立ち位置で、カウンター越しに職人がいる。テーブルも個室もない。そのかわり、握りが生まれる瞬間が、そのまま目の前にある。手の動き、シャリの形、ネタの置かれ方。座って待つ食事とは違う、種類の集中がここにはある。
毎朝、市場へ足を運ぶ。その日に仕入れたものが、その日のネタになる。米と酢の配合は握りを支えるために整えられ、一貫ずつ、その場で形にされる。ちょうどよく締まったシャリと、その上のネタが口のなかでほどける感覚は、食べて初めてわかる。
おまかせコースでは、中トロや帆立、季節の魚が小料理とともに順に出される。利酒師が監修した三十種類以上の日本酒が、鮨の流れに沿うように用意されている。にごりの淡い樽生ビール「白穂乃香」は、鮨との相性を静かに主張する。
気がつけば、杯が空いている。また次の一貫を頼んでいる。立っているのに、なぜかゆっくりとした時間が流れている。